オフィス「和み」

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危機予防と発生時対応
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平成19年5月10日 石川県教育委員会「初任校長会」で拝聴!

田中危機管理・広報事務所長 田中 正博氏 
「学校における危機管理のあり方」 ~危機の予防策と発生時の対応

予防策「3つの心得」とは?
・傾聴…相手の言い分を十分に聴き、途中で話をさえぎらない。聴く姿勢は誠意を伝える。
・面談…直接会う。面談は最大の誠意の表れである。
・迅速…同じ行動をとっても、遅いと評価されない。早さが誠意として伝わる。
コミュニケーションは「理」と「情」?
・理屈や理論で納得する人がいる。しかし、理屈や理論で納得しない人もいる。人を最後に動かすのは「情のコミュニケーション」である。
話し手の印象は、何で決まる?
「メラビアンの法則」…話し手が聞き手に与える印象は何で決まるのか。その%は「7%・38%・55%」である。
①話の内容(伝達情報)……………………「   %」
②声の質、大きさ、テンポ(聴覚情報)………「   %」
③表情、仕草、見た目(視覚情報)…………「   %」
あなたは、どう考えますか?
 アメリカUCLA大学の心理学者で、アルバート・メラビアンが1971年に提唱した概念です。人物の第一印象は初めて会った時の3~5秒で決まり、また、その情報のほとんどを「視覚情報」から得ているというのです。メラビアンが提唱する概念において、初対面の人物を認識する割合は「見た目・表情・しぐさ・視線等」の視覚情報が55%、「声の質・話す速さ・声の大きさ・口調等」の聴覚情報が38%、「言葉そのものの意味・話の内容等」の言語情報が7%と言われています。

危機発生の対応策                                
・大事なのは、発生後に「どう対応したか」が問われるのである。人は起こしたことで非難されるのではなく、「起こしたことに、どう対応したか」によって非難される。危機管理の鍵は、クライシス・コミュニケーションである。
                                 crisi communication
・「3つのキーワード」

①スピード…迅速な意思決定と行動。
②情報開示…疑問を招かぬ正確な情報開示。
③社会的視点からの判断…学校側の理論からの判断に注意。

過去の体験から! ~次のような配慮に賛成?~

 a怪我や事故が怖いから、跳び箱運動をやめさせた。
 b子どもが腕を折ったブランコを撤去した。
 cけんかの原因となった鬼ごっこを禁止した。

 子ども達と学校生活を営んでいると、思いもよらないことが起こります。最近では「想定外」と呼びます。想定外の事件といえば、2001年I小学校「児童殺傷事件」が思い出されます。小学校教育の現場にいた私にとっては、とってもショックな事件でした。
 学校という場はある意味、特殊事情をもった場です。教育公務員として義務を負った教師(学校)は全ての情報を開示できないので、閉鎖的になってしまう傾向がありました。そこで、学校は地域社会に開放する方向で進んでいたのに、想定外の事件が発生してしまい、その対応策として「学校のドアにロック機能」が設置されました。一度発生した事故・事件が再発生した場合「以前あったのに(想定内)」と非難されるからでしょう。
 こんな非難を回避するために、上記abcの配慮には、賛成しますか? abc3事例を通して、対応策について考えてみましょう。

a怪我や事故が怖いから、跳び箱運動をやめさせた。
 「跳び箱」だけではなく、体育では様々な運動をします。運動には危険が伴います。現在、40代前後の人達は高学年でソフトボールをしていました。堅くて大きなソフトボールをピッチャーが投げて、バットで打って、ボールを捕球し投げる。ソフトボールを当たり前にしていると。
・スイングした後のバットが頭や体に当たった。
・捕球しようとしたボールが顔を直撃した。
などなど、危険な場面がいっぱいありました。でも、回避能力が優れていたのか、大事故にはなりませんでした。では、現在の指導要領「ベースボール型」では、次のように記されています。

 止まったボールや易しく投げられたボールを打ったり、イニングの終了の仕方を工夫したり、攻守交替が繰り返し行えるように簡易化されたゲームをする。現在は、ティボールが主流です。
  

・二度とやらせたくない心情は理解できますが、やめさせるわけにはいきません。指導要領に器械運動の技能として「跳び箱運動では、基本的な支持飛び越し技を安定して行うとともに、その発展技を行う」と明記されています。中止より、跳び箱運動で事故につながる要因を把握し、注意させることが求められます。
 当たり前のことですが、「マットを敷く」「靴紐を結ぶ」「服装を整える」「手のつく位置を明示する」「滑り止めを用意する」「準備体操・補助運動を行う」など、教師の立ち位置を含め、安全に対するきめ細やかな対応が優先されます。ですから、その場を離れる時は「子ども達に運動させない」ことも必要な対応です。

・安全性を確保しながら、子ども達に運動させる必要性があります。安全性の配慮で大切なことは、「まず教師がやってみる」ことです。跳び箱を跳んでみる。鉄棒にぶら下がってみる。砂場へジャンプしてみる。などなど、給食の安全性を管理職が前もって試食するのと同様、安全性を教師が担保する心構えが必要です。誰だって最初から上手な人はいません。体験していない子はできないのが当たり前です。事故につながる要因を把握し、注意させながら体験させてください。
b子どもが腕を折ったブランコを撤去した。
 aは授業中「教師の指導中」でしたが、ブランコでの事故は「休み時間」です。自分で着地を失敗し、転倒し、腕を骨折したようです。この場合、事故につながるブランコの撤去に賛成しますか?
 校庭に設置してある遊具の代表といえば、「ブランコ」「ジャングルジム」「雲底」「登り棒」「滑り台」です。学校職員は、定期的に点検し安全性を確かめています。また、専門業者による点検も行っています。教科として必修ではないので、だんだん、遊具が少なくなっている地域もあります。
  
・学校で発生した事故は全てが学校の責任が問われます。この骨折の場合、「ブランコでの遊び方に無理があり、骨折につながった」と考えれば、子ども達に遊び方を徹底させるべきであり、撤去には反対です。ブランコでリフレッシュする子ども達のことを考えれば、「安全な遊び方の徹底指導」に賛成です。
 しかし、前述したように「撤去する地域」があることを考えると、「撤去」でも致し方ない場合もあると思います。子どもの負傷の度合いにもよりますが、事故に遭われたお家の方の心情に配慮することも必要です。校庭のブランコを撤去したとしても、ブランコに乗れる場所はありますからね。

・シーソーで指を失なった事故がありました。かわいそうで仕方がありませんでした。子どもの動きは想定外があると考えたのでしょうか。手こぎシーソーは使用禁止となり、撤去になりました。
cけんかの原因となった鬼ごっこを禁止した。
 現在の学校現場で一番の悩みが「子ども同士の遊び」から発生する人間関係のトラブルです。接し方-1「自己防衛本能」で紹介した通り、「自分の不都合なことは話さず(自分のことは棚に上げ)、相手のことだけを語る」ことが多いので真相には時間がかかります。
 以前、次のようなトラブルが発生しました。「鬼ごっこ」は禁止ですか?

 A母…今日、Aが、休み時間に鬼ごっこをしていて、Bちゃんに背中を押されて、転んで泣いていたことを先生は知っていますか?
 先生…授業中は泣いていなかったので、知りませんでした。Aちゃんが言ったのですか?
 A母…Cちゃんのお母さんから連絡を頂いたので分かりました。 

・ここまでの会話で、大変複雑で危険性を含んだ事件になっていく可能性のあることを、ご理解頂けますか?
 既に解決したAとBのけんかを、Cが目撃したある場面だけを聞いたC母がA母に伝え、担任へ電話がかかったのでした。先生は、Aちゃんに怪我がなかったこと・Bちゃんと仲直りしたことを確認した後、A母に「明日二人から話を聴く」と伝えたのでした。
・C母は親切心があって伝えた。A母はB母に電話する前に、担任の先生へ相談をかけた。先生は知らなかった。Aに怪我はなく二人は仲直りをしていた。
・「子どもの喧嘩に親が出る」という諺があります。親が出るとかえって事を面倒にすると例えです。まさしく、トラブルを大きくしてしまう原因になるのは、直接A母がB母へ電話してしまうことです。翌日、担任の先生は、次のように話したようです。
・AとBは仲良しでいつも遊んでいます。昨日も二人で鬼ごっこみたいなことで遊んでいたのですが、BがAを追いかけている前に別の子が現れ、突然Aが止まったらBとぶつかったのでした。AはBに押され手を着いたのですが、びっくりして涙ぐんでしまったようです。Bが「ごめんなさい」と言って仲直りをしました。怪我もしなかったし、自分たちで解決できたし、4月から比べると成長したと感じました。Aお母さんにはご心配をおかけしましたが、だんだん自立していくAをほめてください。
 上手な話でした。トラブルに拡大しなかった理由は、子ども達のことを日々観ていた教師が、誠実に対応したと同時に「成長をほめてください」という素敵な言葉を母に伝えることができたからでしょう。ピンチをチャンスにした先生に拍手を贈りました。
・「遊びの禁止」はあり得ます。遊びでも参加する一人一人が守らなければならないルールがあるはずです。誰かの失敗を学級全体で考え、よい経験として生かす。そんな教師こそ「ピンチをチャンスにできる教師・失敗から学ぶ教師」と言えます。

教師と保護者は、子どもを中心においた「両輪」!

 もう既にお亡くなりになったT校長先生は、入学式に保護者へに向けて、次のようなお話を必ずしていました。
 子どもの前で、担任先生の悪口を言わないでほしい。教師も人間だから失敗もある。親が自分の先生の悪口を言っているのを聞くと、子どもは自分はだめな担任に習っていると感じる。親も先生も願いは同じ、子どもの成長なのですから、いっしょに頑張っていきましょう。

 私が小学校長の最後に出席した「卒園式」で、次のような話をしました。
 お家の方にとって大切なお子さんを「守り育てる」は当たり前です。しかし、守ってばかりいると育つ部分を親が奪うことになります。
 「可愛い子には旅をさせよ」の諺のように、世間に出して苦労させないと育たないものがあります。どうぞ、「守る部分」と「育てる部分」のバランスを考えながら、お子さんを小学校へ送り出してください。

 
お子さんを車に乗せて、「前輪が先生」+「後輪がご家族」という4WDになれるよう意思疎通を図ってください。 もちろん両輪から意志疎通を図る努力が必要なことを付け加えておきます。

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