オフィス「和み」

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家庭でできる水泳教室「呼吸編」
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コロナ禍 家庭でできる水泳指導

 令和二年の夏は、コロナ禍の影響で、K市立小学校での水泳授業やプール開放も中止となった。

学校での水泳指導がなくなった

 九月に入ってもまだ暑い日々が続いていた。そんなある日、学校から帰ってきた愛ちゃんが、
「今年水泳したかったな。もう少しでクロールができるところまできたのに。」
「愛ちゃんはクロールの時、何が課題なの。」
「息つぎ。呼吸できると25mまでいけるのに。」

 「息つぎね」母は少し考えてから、「お母さんの水泳教室をやってみる?」と、愛ちゃんの顔をのぞき込んた。「やる」の声を聞くと、母はお風呂場に行ってしまった。愛ちゃんは「お風呂でもぐるのかな。シャーワーで練習するのかな」と想像していると、


もどってきた母は、水が入った洗面器とタオルを手にしていた。

「この水の入った洗面器で、呼吸の練習をするのよ。」
 母は愛ちゃんの顔を見ながら話を続けた。
「お母さんが小学校の頃、担任の先生が教えて下さったのよ。雨が続いてプールには入れなかったの で、『教室で水泳呼吸勉強』を担任先生が考えてくれたの。」
 母の楽しそうな表情を見ていた愛ちゃんは、
「どうすんの。教えて。教えて。」
「今から、お母さんの水泳教室・呼吸法を始めましょう。まず最初に、愛ちゃん。この洗面器の水に顔をつけてみて。」

 

 愛ちゃんは息を吸い込んで、洗面器に顔を埋めた。プールと違ってちっちゃな洗面器でしたが、顔を埋めると息苦しく感じた。顔を上げた愛ちゃんに
「やるじゃない」と誉め、母の水泳教室がスタートした。

「愛ちゃん。今、洗面器の水に顔をつけた時、苦しく感じなかった?」
「少し、苦しかったわ。」
 

ステップ1 ウゥーの声出し法

「ですよね。ではステップ1。『ウゥーの声出し法』 で、もう一度顔をつけてごらん。やり方は、顔を つける前から、顔を上げ終わるまで、『ウゥー』 と言い続けるのよ。」
 愛ちゃんは「ウゥー」と言って顔を埋め、そして、息が苦しくなる頃、顔を上げた。顔を埋めすぎたのか、テーブルに水が溢れた。
「さっきみたいに、苦しかった?」とたずねる母に「息が続かないから、やっぱり苦しかった。」
と愛ちゃんは答えた。
「じゃ、最初は『口だけ』をつけることにしましょう。次に、『口と鼻』。そして、『顔全体』と三段階でやってみましょう。」

 

 母の言うとおり、『口だけ』の『ウゥーの声出し法』は前より少し楽だった。『口だけ』をやっている内に、愛ちゃんは気づいた。(『ウゥー』の声を小さくすると長く続けることができる。でも、声が大きいと、肺の息がすぐなくなり苦しくなるんだ)
「上手になったね。では、お母さんが10数える間、ウゥーと言い続けられるかな。」
 母さんの10カウントは、愛ちゃんのことを気遣ってか、少し早かった。愛ちゃんは「20まででもいいよ」と言って、胸一杯の息を吸い込んだ。でも、どうしてだろう。さっきは余裕の10でしたが、今度はテンカウントの途中で顔を上げた。
 顔を上げた愛ちゃんに、母は「いい勉強をしたね」と言って、10もできなかった理由を説明してくれた。

「息を一杯吸い込み過ぎると、苦しく感じるのよ。だから、胸一杯に吸い込まないこと。」
 愛ちゃんは不思議に思った。(息を長く止めるために一杯息を吸い込むと長く止められない。一杯は駄目か…。そうだ。おじいちゃんがいつも「腹八分目」と言っていた。今度は八分目の息にしよう。)
 愛ちゃんの20カウントの二回目の挑戦が始まった。洗面器に口だけつけた愛ちゃんの口のあたりから、ブクブクと泡が上がっている。「17・18・19・20」母の声を聞いてから顔を上げた愛ちゃんに「ステップ1合格」と言って母はハイタッチを求めた。

ステップ2 鼻歌呼吸法

 ステップ2は、『ウゥーンの声出し法』だった。洗面器に口と鼻をつけて、鼻から「ウゥーン」と声を出す方法だった。つまり鼻歌を唱うように息を出す仕方だった。
 「20まで数えてよ」と言う愛ちゃんに、母は、「長く息止め練習ではなくクロールの呼吸練習だから10で十分だよ」と言った。愛ちゃんは『鼻歌呼吸法』と自分で呼び名を考えた。

 

ステップ3 顔全体を洗面器に

 ステップ3は、顔全体を洗面器につけた練習だった。呼吸の仕方は『ウゥーの声出し法』でも『鼻歌呼吸法』でも、どちらでも良かった。(そうだわ。両方の呼吸ができるようになるとレベルアップするね)と愛ちゃんは思った。
「夕食の支度をするから、ステップ3は自主練習で頑張って。」
 そう言って、母はキッチンへ行ってしまった。『ウゥーの声出し法』で10カウント成功し、『鼻歌呼吸法』でも10カウント成功だった。できたことを報告しにキッチンへ行く途中、愛ちゃんは(何で鼻歌呼吸法が必要なのか)と不思議に思った
「お母さん。口からも鼻からも10カウントできたよ。」
母と愛ちゃんはハイタッチをした。そして、
「どうして、鼻からの呼吸法も必要なの?。」
「今はクロールの呼吸だから、必要ないと思うけれ ど、『背泳』をすることになったら必要になるよ。 背泳ぎの時、顔は上を向いているでしょ。だから、 鼻に水が入らないようにするためよ。」
母は続けた
「それから、プールの底に手をついて逆立ちをする 時もターンをする時も、鼻に水が入ってこなくするのに、とても大切なのよ。」

 

夕食の食卓

 トン・トン・トン・…と、材料を切りながら話す母の姿が頼もしく思えてくる愛ちゃんであった。母は忙しそうだったので、テーブルにもどって『鼻歌呼吸法』を練習した。
 夕食は、愛ちゃんの大好きなスパゲッティー。大人の味「バジル」を使ったジェノベーゼ風。父さんも好きで、「やっぱり、ビールにはジェノベーゼだよな」と、いつも言うのだった。

 夕食の食卓を囲んで、母の水泳教室の話を父にすると。「食事が終わったら、続きはお父さんの水泳教室にしようか」と話が盛り上がった。弟は「ぼくもする」と言ってうらめしそうな顔をした。
(水泳の話なんか、これまでしたことなかったのに、お父さんまでが水泳教室をするとは…、いったいどうなってしまったのか)
と不思議に思いながら、大好きなジェノベーゼ風スパゲッティーを平らげた。

 食器は愛ちゃんと弟で運び、父が洗う。「働かざる者食うべからず」の口癖は家のモットーになっていた。今日はテレビをつけずに弟と持っていると、父が持ってきた洗面器は、母と使ったものより一回大きかった。



 「母さんの水泳教室では、『ウゥーの声出し法』と『鼻からウゥーンの声出し法』の両方で、口からも鼻からも10カウントできたんだって。やるじゃん愛ちゃん。」
「ぼくもする」と言う弟を膝に乗せた父は、 


ステップ4 1・2・3・パッ呼吸法

 「ステップ4は、『1・2・3・パッ呼吸法』をクリアーしよう。」
愛ちゃんと弟は「ハーイ」と言った。でも、やり方が分からないので、「どんな練習をするの」と父にたずねた。ニコニコしながら父は
「『1・2・3・パッ呼吸法』は、『1・2・3の間 顔を水につけて、口でも鼻からでも息を吐く。そ して、顔を上げて『パッ』と言うの。』
 愛ちゃんは心の中で繰り返した(『1・2・3の間顔を水につけてウゥーと吐く。そして、顔を上げて『パッ』と言う)。心の中で繰り返している内に、疑問がわいてきた。(いったい、どこで息を吸ったらいいの)。
「お父さん。123は息を吐いて、4で顔を上げ『パッ』と言うと、どこで息を吸うの。」
「じゃー。顔を水につけずやってみよう。」
そう言って、父は弟と一緒に「1・2・3・パッ」と何度も続けた。
「1・2・3・パッ・ウゥ・ウゥ・ウゥ・パッ」…。
もどってきた母までも一緒に「1・2・3・パッ・ウゥ・ウゥ・ウゥ・パッ」…。
部屋中が水泳教室になった。
「どうだ愛ちゃん。どこかで息を吸ったかな」父にそう言われ、愛ちゃんはゆっくり言ってみた。
「ウゥー ・ウゥー ・ウゥー ・ パッ 」
(吸っていない。でも、どうして吸っていないのに何回も続けられるのかな)。愛ちゃんが何度もゆっくり言っている内に気づいた。(『パッ』と言った後、自然に息が入ってくるんだ)。父と母はニッコリ頷き、愛ちゃんの顔を見た。そして、父が
「『1・2・3』と言っている間に息を吐き『パッ』
 と言うと同時に自然に息が肺に入ってくる。つまり、意識して『吸う』必要がないんだね。愛ちゃんが気づいた通りだよ。」
父がパチパチと拍手すると母も弟も一緒になって拍手をした。愛ちゃんは何だか泳げる気がした。
 大きめの洗面器に顔を埋め、「1・2・3・パッ・ウゥ・ウゥ・ウゥ・パッ」…水泳教室は続いた。「1・2・3・パッ・ウゥ・ウゥ・ウゥ・パッ」…。

 

ステップ5 横向き1・2・3・パッ呼吸法

 父が「ステップ5が最終だ。最終は顔を右か左のどちらかに上げて『パッ』と言うんだよ」。クロールの呼吸は横向きだからね。弟も小さな洗面器を持ってきて『1・2・3・パッ呼吸法』をやって楽しんだ。





 そうそう。愛ちゃんは「25mを泳ぐことはできたのか」って。それは、あなたが実際にやって確かめてごらんなさい。洗面器がなくてもお風呂の湯船でもできるからね。呼吸ができると長く泳げるよ。

水泳は命を守る学習

 毎年。夏になると水の事故で尊い命を失う子ども達が後を絶ちません。プールで水遊びをしているだけでは泳げるようになりません。学校だけではなく様々な機会を利用して水泳を学習して下さい。「水泳は命を守る学習」なのです。




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